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呼吸と循環から考える慢性腰痛|横隔膜・胸郭・血流から身体をみる

呼吸と循環から考える慢性腰痛。横隔膜・胸郭・股関節と血液の流れのつながりを示したアイキャッチ画像

こんにちは!

UNITYボディコンディショニングの山崎です!

名古屋市東区芳野・森下駅近くで、

不調や痛みの改善を目指した

ボディコンディショニングサロンを運営しています。

目次

はじめに

先日参加したセミナーで、「呼吸・循環・姿勢をどのようにつなげて身体を考えるか」について学ぶ機会がありました。

普段の施術でも、痛みがある場所だけを見るのではなく、胸郭の動きや呼吸、股関節など、身体全体の状態を確認することを大切にしています。

今回のセミナーでは、そうした身体のつながりを「呼吸」と「循環」という視点から考える内容があり、私自身とても興味深く感じました。

実際に学んだ内容を自分なりに臨床へ落とし込み、お客様の身体をこれまでとは少し違った視点から評価・施術してみると、身体の動きや呼吸のしやすさ、痛みの感じ方などに変化を感じていただける場面がありました。

施術をしている自分自身も、

「なぜここへのアプローチで身体が変化したのだろう?」

と、あらためて考えるきっかけになりました。

ただし、施術後に変化がみられたからといって、その理由を一つの筋肉や関節、あるいは一つのメカニズムだけで説明できるわけではありません。

そこで今回は、セミナーで学んだことをそのまま紹介するのではなく、そこから生まれた疑問を自分なりに整理しながら、現在報告されている研究と照らし合わせ、

「呼吸や循環は、慢性腰痛とどのような関係があるのか?」

について考えてみたいと思います。

呼吸は「酸素を取り込む動作」だけではない

呼吸というと、

「酸素を吸って、二酸化炭素を吐き出す」

という働きを最初に思い浮かべるかもしれません。

もちろんこれは呼吸の重要な役割です。

しかし身体の動きという視点から見ると、呼吸はそれだけではありません。

呼吸の中心となる筋肉の一つが横隔膜です。

息を吸うと横隔膜が収縮して下方へ移動します。それに伴って胸腔内圧や腹腔内圧が変化します。

つまり横隔膜は、

・呼吸
・胸腔と腹腔の圧変化
・体幹機能
・静脈血の移動

などに関係する位置にある筋肉です。

呼吸による胸郭・横隔膜・腹腔の動きと圧変化を示した図。吸気時に胸郭が広がり、横隔膜が下がる関係を説明している。

このため近年では、腰痛に対しても単純に「腹筋や背筋を鍛える」という考え方だけでなく、横隔膜を含めた呼吸機能と体幹機能の関係が研究されています。

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横隔膜のトレーニングで腰痛は変わるのか?

2026年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析では、成人の非特異的腰痛に対する横隔膜トレーニングの効果が検討されています。

13件のランダム化比較試験、合計626名が解析され、横隔膜トレーニングを行った群では、対照群と比較して疼痛と機能障害が改善する可能性が示されました。

疼痛と機能障害については、いずれもエビデンスの確実性が「中等度」と評価されています。

これは非常に興味深い結果です。

一方で、

「横隔膜が硬いから腰痛になる」
「横隔膜を緩めれば腰痛が治る」

という意味ではありません。

横隔膜トレーニングによる変化には、呼吸パターン、腹圧、体幹筋活動、心理的要因など、さまざまな要素が関係している可能性があります。

2023年のランダム化比較試験では、慢性腰痛患者22名を対象として、

「横隔膜呼吸+コアスタビライゼーション運動」

と

「コアスタビライゼーション運動のみ」

が比較されています。

4週間の介入によって両群とも複数の指標が改善しましたが、横隔膜呼吸を追加した群で明確な追加効果が確認されたのは、主に胸郭拡張性や一部の腹横筋活動でした。すべての評価項目で横隔膜呼吸群が優れていたわけではありません。

こうした研究を見ると、

「呼吸を整えることは腰痛治療の一つの選択肢になり得るが、呼吸だけですべてを説明することはできない」

という捉え方が適切だと思います。

呼吸すると血液の流れも変化する

今回、私自身が特に興味を持ったのが、呼吸と循環の関係です。

心臓へ血液を戻すためには、心臓そのものだけでなく、筋肉や呼吸による作用も関係します。

下肢から心臓へ戻る静脈血の場合、

・静脈弁
・ふくらはぎなどの筋ポンプ
・胸腔と腹腔の圧変化

などが血液の移動に関わっています。

その一つが、呼吸によって生じる呼吸ポンプです。

息を吸って横隔膜が下降すると、胸腔内圧と腹腔内圧の関係が変化します。

この圧変化によって静脈内の血液の流れも呼吸周期に合わせて変動します。

大切なのは、

「吸えば血流が増える」

という単純な仕組みではないことです。

横隔膜が下降して腹腔内圧が上昇すると、吸気中に一時的に下肢からの静脈流出が抑えられることがあります。

その後の呼気によって血液が流れやすくなるなど、吸気と呼気を繰り返すことによって周期的に血液を移動させることが呼吸ポンプの特徴です。

健康成人を対象とした研究でも、横隔膜を主体とする呼吸によって大腿静脈血流や中心循環が変化することが確認されています。

呼吸とふくらはぎを一緒に使うとどうなる?

2003年には、健康な男性を対象として、

・安静呼吸
・深呼吸
・足関節運動
・足関節運動+深呼吸

による大腿静脈の血流速度が比較されています。

その結果、深呼吸のみでも大腿静脈の血流速度は増加しましたが、足関節運動と深呼吸を組み合わせた条件で最も大きな血流速度が確認されました。

これはとても分かりやすい結果です。

ふくらはぎの筋肉を動かすことで働く筋ポンプと、横隔膜による呼吸ポンプが同時に働いたと考えることができます。

呼吸ポンプとふくらはぎの筋ポンプによって、下半身から心臓へ血液が戻る静脈還流の仕組みを示した図。

臨床で、

「呼吸だけを見る」

「脚だけを見る」

のではなく、身体全体の運動として考えるヒントになる研究だと思います。

ただし、この研究は健康な被験者を対象として血流速度を調べたものです。

したがって、

「深呼吸をすれば腰痛が改善する」

ことを証明した研究ではありません。

循環の生理学と腰痛治療の効果は、分けて考える必要があります。

腰が痛くても、腰だけに問題があるとは限らない

慢性腰痛を診ていると、腰そのものだけではなく、

・股関節が動きにくい
・臀部に力が入りにくい
・胸郭が動きにくい
・身体を動かすときに腰ばかりを使っている

といった状態がみられることがあります。

慢性腰痛を腰だけでなく、胸郭、横隔膜、骨盤、股関節、下肢など身体全体のつながりから考えることを示した図。

特に股関節と腰痛については、多くの研究があります。

2024年に発表されたシステマティックレビューでは、非特異的腰痛患者の股関節バイオメカニクスを調べた54研究がまとめられています。

腰痛のある人では、健康な人と比較して、

・股関節可動域の低下
・特に股関節内旋可動域の低下
・股関節外転筋、伸展筋の筋力低下
・ハムストリングスや大殿筋の筋活動の変化
・歩行や立ち上がり動作の変化

などが報告されています。

ただし、ここにも注意が必要です。

このレビューに含まれている研究の多くは観察研究です。

そのため、

「股関節内旋が硬いから腰痛になった」

と原因と結果を決めることはできません。

腰が痛いために身体の使い方が変化し、その結果として股関節の動きが変わっている可能性もあります。

だからこそ施術では、一つの所見を原因と決めつけるのではなく、

実際に動きを変えたときに症状や動作がどう変化するか

を確認することが大切だと考えています。

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股関節のつまり・痛みはなぜ起こる?

神経は「線」ではなく、周囲の組織と一緒に存在している

今回勉強していて、もう一つ興味深かったのが末梢神経の周囲にある組織です。

解剖図では神経が一本のコードのように描かれることがあります。

しかし実際には、神経は周囲の筋肉や筋膜、脂肪組織、血管などと接しながら身体の中を走行しています。

末梢神経の周囲にはparaneurium(傍神経組織)と呼ばれる疎性結合組織があります。

この組織は神経と周囲組織の間に存在し、身体を動かしたときに神経が長軸方向へ移動しやすくする役割を持つと考えられています。

つまり神経にとって、

「周囲の組織の中を適切に動けること」

も大切だということです。

さらに、末梢神経には神経そのものを栄養する血管があります。

2026年に発表されたヒト坐骨神経の微細解剖研究では、paraneuriumやepineuriumに自然な開口部があり、そこを血管が通過して神経へ出入りしていることが確認されています。

神経を考えるときには、

神経そのものだけではなく、その周囲の結合組織や血管を含めて考える必要がある

ということが分かります。

血管の周りにも組織がある―PVATとは?

さらに血管の周囲にも、興味深い組織があります。

それが、

PVAT(Perivascular Adipose Tissue:血管周囲脂肪組織)

です。

名前の通り、血管の周囲に存在する脂肪組織です。

以前は、血管を保護する単なるクッションのような存在として考えられることもありました。

しかし現在では、PVATは単なる脂肪ではなく、血管機能に関与する生物学的に活発な組織であることが分かってきています。

PVATはさまざまな物質を分泌し、血管壁へ局所的に作用することで血管収縮・血管拡張などに影響します。

また、PVATには交感神経だけではなく感覚神経の存在も報告されています。

さらに2025年のレビューでは、PVATが血管の拍動などによって加わる機械的刺激を感知し、生物学的反応へ変換するmechanotransduction(機械的刺激の情報変換)という働きについても整理されています。

このあたりは、今後さらに研究が進んでいく分野だと思います。

「血管の近くを押して痛い」=血流が悪い、ではない

臨床では、筋肉だけではなく、神経や血管が走行している場所を触れたときに強い圧痛を認めることがあります。

ここで注意したいのは、

「血管の上を押して痛いから血流が悪い」

とは判断できないことです。

血管の周囲には、

・血管壁
・感覚神経
・末梢神経
・筋膜
・結合組織
・脂肪組織

など複数の組織があります。

実際にヒトの静脈にも侵害刺激を感知する仕組みがあり、ブラジキニンなどの化学物質によって静脈由来の痛みが生じることが実験的に確認されています。

そのため血管走行部に圧痛があったとしても、

どの組織から痛みが生じているのかを触診だけで特定することはできません。

まして、

「PVATが硬い」
「PVATを剥がした」
「血管周囲の癒着を取った」

などと臨床上断定するための根拠は、現時点では十分ではありません。

ここは私自身も、非常に面白い分野だからこそ慎重に考えたい部分です。

「循環が悪いから痛い」と単純化しない

今回、呼吸と循環について勉強していると、

「血流を良くすれば痛みが改善するのでは?」

と考えたくなります。

ただ、慢性疼痛はそれほど単純ではありません。

痛みには、

・局所組織
・末梢神経
・脊髄
・脳
・自律神経
・心理社会的要因
・睡眠
・身体活動量

など多くの要素が関係します。

そのため、

「慢性腰痛=血行不良」

と考えてしまうのも適切ではありません。

一方で、筋肉や末梢神経を含む身体の組織が正常に働くために、酸素や栄養を届け、代謝産物を回収する循環が必要なのも事実です。

私自身は、

循環を「腰痛の原因」と決めるのではなく、身体が機能するために必要な環境の一つとして捉える

ことが大切なのではないかと考えています。

施術で大切にしたいこと

今回のセミナーで学んだ内容と、そこから関連する研究を調べていく中で、改めて感じたことがあります。

それは、

「痛いところだけを見ない」ことと同時に、「何でも全身につなげすぎない」ことも大切

だということです。

腰が痛いから腰だけを施術する。

反対に、

「腰痛はすべて呼吸の問題」
「すべて循環の問題」
「すべて姿勢の問題」

と考える。

どちらも身体を単純化しすぎてしまう可能性があります。

実際の施術では、

・どの動きで痛いのか
・股関節はどの程度動くのか
・胸郭は呼吸に合わせて動いているのか
・呼吸を変えると動作は変わるのか
・筋肉や神経周囲にどのような圧痛があるのか
・施術後に最初の動作がどう変化したのか

と、一つずつ確認していくことが重要だと考えています。

そして施術後に変化があったとしても、

「なぜ変化したのか?」

を決めつけず、もう一度身体を評価する。

今回の学びは、そうした普段の臨床を改めて見直すきっかけにもなりました。

まとめ

呼吸は単に酸素を取り込むだけではなく、横隔膜を介して胸腔・腹腔の圧を変化させ、体幹機能や静脈血の移動にも関わっています。

近年の研究では、非特異的腰痛に対する横隔膜トレーニングによって、疼痛や機能障害が改善する可能性も示されています。

また慢性腰痛では、股関節の可動域や筋力、動作の変化がみられることも報告されています。

さらに身体を細かく見ていくと、神経の周囲には神経が動くための結合組織や血管があり、血管の周囲にもPVATのような生物学的に活発な組織が存在しています。

身体は、

筋肉だけ
関節だけ
神経だけ
血管だけ

で働いているわけではありません。

それぞれがお互いに関係しながら、一つの身体として機能しています。

今回セミナーで学んだ「呼吸と循環」という視点は、私自身がこれまで行ってきた身体の評価を、もう一段深く考えるきっかけになりました。

これからも新しく学んだことをそのまま当てはめるのではなく、実際の身体の変化を確認しながら、「なぜ変わったのか?」を解剖学や生理学、研究と照らし合わせて考えていきたいと思います。

▶長引く腰痛でお悩みの方へ
UNITYボディコンディショニングの腰痛に対する考え方・施術についてはこちら

【参考文献】

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  • de Ruiter GCW, Spinner RJ, Sala-Blanch X, Reina MA. Natural Openings in the Paraneurium and Epineurium of the Human Sciatic Nerve and Their Relationship to the Entry and Exit of Blood Vessels. A Microanatomical Study. Clin Anat. 2026;39(4):461-469.
  • Watts SW, Krieger-Burke T, Rance N, Contreras GA. Mechanotransduction in Perivascular Adipose Tissue (PVAT). Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2025;45(4):461-467.
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