『動きが心をつくる』を読んで|身体に触れる仕事をしているからこそ感じたこと

こんにちは!
UNITYボディコンディショニングの山崎です!
名古屋市東区芳野・森下駅近くで、
不調や痛みの改善を目指した
ボディコンディショニングサロンを運営しています。
はじめに
普段、施術という仕事をしていると、身体と心は思っている以上に近いところにあるのではないか、と感じることがあります。
仕事が忙しい時期になると肩に力が入っている人。
考え事が多いと、呼吸が浅くなっている人。
痛みが続いているうちに、身体全体を守るような動きになっている人。
逆に、施術が終わったあとに身体の力が抜けて、
「なんだか気持ちまで楽になりました」
と言われることもあります。
もちろん、身体を施術すれば心の問題まで解決できる、という単純な話ではありません。
それでも日々、人の身体に触れていると、
「身体と心を、本当に別々のものとして考えていいのだろうか」
と思うことがあります。
そんなことを改めて考えさせられたのが、今回読んだ春木豊先生の『動きが心をつくる―身体心理学への招待』でした。
タイトルの通り、この本には非常に興味深い問いがあります。
心が身体を動かしているだけではなく、身体の動きもまた、心をつくっているのではないか。
今回は、この本を読んで特に印象に残ったことと、施術の現場に立つ自分なりに感じたことを書いてみたいと思います。
「心が先、身体が後」とは限らない
私たちは普段、
「不安だから身体が緊張する」
「悲しいからうつむく」
「緊張しているから呼吸が浅くなる」
と考えることが多いと思います。
これは、
心 → 身体
という方向です。
しかし本書で繰り返し考えられているのは、その反対側です。
身体 → 心
という方向もあるのではないか。

本書では、生物の進化までさかのぼって「動き」について考えています。
生物は環境から刺激を受け、それに反応し、動くことで生き延びてきました。そして、そのような身体活動とともに神経系も複雑化してきたという視点から、人間の心について考えていきます。
この部分は、施術をしている自分にとって非常に印象に残りました。
私はこれまで、身体の状態を見ながら、
「なぜこの筋肉が硬くなっているのか」
「なぜこの関節が動きづらいのか」
ということを考えてきました。
でも、それだけではなく、
「この身体の状態が続いていることで、その人自身はどのような感覚を受け取っているのだろう」
という方向から考えることも必要なのかもしれません。
一方通行ではなく、身体と心がお互いに影響し合っている。
この考え方が、この本を読んで自分の中に一番残ったものです。
呼吸は「今の自分」が表れやすい
本書の中で、特に臨床と結びついて読めたのが「呼吸」でした。
呼吸には少し不思議な特徴があります。
眠っている間も、私たちは呼吸しています。
つまり、本来は意識しなくても行われるものです。
それなのに、
「ゆっくり息を吐いてください」
と言われれば、自分の意思で変えることもできます。
本書では、呼吸は心理状態によって変化する一方で、呼吸の仕方を意識的に変えることから心理・生理状態へ働きかける可能性も取り上げられています。
春木先生らの研究でも、呼気を長くする呼吸法を用い、心理的な傾向や自律神経系に関連する指標の変化が検討されています。小規模で古い研究なので、その結果をそのまま現在の臨床効果として解釈することはできませんが、「呼吸から心身を考える」という本書の背景を知るうえでは興味深い研究です。
実際、施術をしていても呼吸はよく見ます。
深く吸えるかだけではありません。
吐くときに力が抜けるのか。
胸だけで呼吸しているのか。
お腹や背中まで自然に動いているのか。
そもそも呼吸をするときに、身体のどこかを頑張らせていないか。
呼吸を見ていると、その人の「今の身体の状態」が表れているように感じることがあります。
だから最近は、呼吸を単に肺へ空気を出し入れする運動ではなく、
身体全体を観察するための一つの窓
として見るようになりました。
「硬い筋肉を緩める」だけでいいのだろうか
施術の現場では、筋肉の硬さを感じることがよくあります。
肩が硬い。
背中が張っている。
首に力が入っている。
お腹が緊張している。
そのとき施術者としては、どうしても「この筋肉を緩めたい」と考えます。
もちろん、それ自体は間違いではありません。
ただ、本書を読んでいると、
「なぜ、この人の身体はここを緊張させているのだろう」
と一度考えることの大切さを感じます。
本の中で筋緊張について扱われ、筋肉を意識的に緊張させたあとに弛緩させていく漸進的筋弛緩法なども紹介されています。身体の緊張と心理状態がまったく別々ではない、という視点です。
仕事の忙しさ。
睡眠不足。
痛みへの不安。
過去のケガ。
呼吸。
日常的な姿勢。
いろいろな背景が身体の緊張に関係している可能性があります。
そう考えると、
「硬いところを見つけて、そこを柔らかくする」
だけでは、身体を見ていることにはならないのかもしれません。
筋肉の硬さそのものよりも、なぜその緊張が必要になっているのか。
そんなことまで考えられる施術者でありたいと思いました。
姿勢を「良い・悪い」だけで見ない
姿勢についての内容も、とても印象に残っています。
一般的には、
「猫背は悪い」
「背筋を伸ばした方がいい」
といった話になりがちです。
ただ、本書で扱われている姿勢は、少し違います。
直立した姿勢や前屈した姿勢などをとったときに、その人の気分や意識がどのように変化するのかが検討されています。
これは本書だけの紹介ではなく、春木先生らの原著論文でも検討されています。
1992年の鈴木・春木の研究では、体幹を直立または屈曲させ、さらに頭部を上・正面・下向きに変えた6種類の姿勢で気分を評価しています。その結果、体幹と頭部の角度によって気分・感情に関する評価に違いが認められ、とくに背中を曲げて頭を下げた条件では、より活気の乏しい方向の評価になりました。
ただし、ここから、
「猫背だから気分が落ち込む」
と断定してはいけないと思います。
人間はそれほど単純ではありません。
私がこの研究から感じるのは、
姿勢は骨や筋肉の配置だけではなく、その人が身体から受け取る感覚とも関係しているのではないか
ということです。
だから施術でも、
肩が何センチ前に出ている。
骨盤が何度傾いている。
ということだけではなく、
その姿勢を取ったときに、
「本人はどう感じるのか」
まで大切にしたいと思います。
歩き方やテンポにも、その人が表れる
歩行についての部分も興味深いものでした。
本書では、歩くテンポを変化させたときの気分についての実験が紹介されています。
速いテンポと遅いテンポで歩かせることで、活動性などの心理評価に変化がみられています。
普段は、
「元気だから足取りが軽い」
「疲れているから歩くのが遅い」
と考えます。
でも身体心理学では、その反対も考えます。
動き方が変わることで、感じ方も変わるのではないか。
これは自分にとって、とても面白い視点でした。
施術の前後でも、歩き方を見ることがあります。
歩幅が変わった。
足音が変わった。
腕が自然に振れるようになった。
身体全体の力みが減った。
そうした変化は、単に関節可動域が変わった結果だけではなく、その人自身の身体感覚の変化まで含んでいるのかもしれません。
施術者だからこそ考えたい「触れる」ということ
そして、この本を読んでいて自分が一番考えさせられたのは「身体接触」の部分でした。
私たちの仕事は、人の身体に触れる仕事です。
毎日のように行っているので、施術者側にとって「触ること」が当たり前になってしまうことがあります。
でも、受ける側からすると決して当たり前ではありません。
誰に触れられるのか。
どこを触れられるのか。
どのくらいの強さなのか。
その人を信頼できているのか。
本書では、身体接触について、相手や部位、これまでの身体接触経験などによって受け取り方が異なる可能性が論じられています。
春木先生が共同著者となった研究でも、大学生や心療内科受診者を対象に、幼少期に両親から受けた身体接触の記憶と心理的適応との関連が調べられています。ただし、これは関連を調べた研究であり、「触れることで心理状態が良くなる」という因果関係を証明したものではありません。
ここは施術者としてとても大切だと思います。
手技を勉強すると、
どこに手を置くのか。
どの方向へ動かすのか。
何秒行うのか。
どの程度の圧を使うのか。
そういった「技術」に目が向きます。
でも、その前に、
その手を相手がどう受け取っているのか。
ということがあります。
安心して身体を預けてもらえているのか。
こちらの手に対して、無意識に身体を固めていないか。
施術内容を理解してもらえているのか。
技術を学べば学ぶほど、逆にこうした基本的なことを忘れないようにしたいと思いました。
この本を読んで、臨床の見方が少し変わった
今回の本には、すぐに使える「○○筋の治し方」や「○○テクニック」は書かれていません。
でも、自分にとってはそういう本以上に臨床へ持ち帰れるものがありました。
それは、
身体を見る視点です。
痛みが減ったか。
関節が動くようになったか。
筋肉が柔らかくなったか。
もちろん、これらは大切です。
でも、それと同時に、
呼吸はどうなったか。
立ったときの力みはどうか。
歩いたときのテンポはどうか。
表情はどうか。
触れたときに身体を守るような反応はないか。
施術が終わったあと、本人は自分の身体をどう感じているのか。
そういったものも、もっと見ていきたいと思うようになりました。
オステオパシーを学んでいる今だから、余計に響いた
現在、自分はクラシカル・オステオパシーについて学んでいます。
そこで身体の構造だけではなく、循環や呼吸、生理的な働き、身体全体の関係性について考える機会が増えました。
『動きが心をつくる』は、オステオパシーの本ではありません。
そして、この本に書かれている研究を根拠に、
「この手技をすれば自律神経が整う」
「この施術で心理状態が改善する」
と結びつけることもできません。
そこは分けて考える必要があります。
それでも、自分の中では共通して感じることがあります。
それは、
人間を一部分だけで理解するのは難しい
ということです。
筋肉。
関節。
神経。
循環。
呼吸。
感覚。
動き。
心理状態。
どれか一つだけが人間なのではなく、それらが同時に存在して一人の人間をつくっています。
当たり前のことかもしれません。
でも、専門的な勉強をすればするほど、その当たり前を忘れてしまうことがあります。
だから今回この本を読めたことは、自分にとって良いタイミングだったのだと思います。
読み終えて、一番残ったこと
この本を読み終えて、自分の中に残ったのは、
「身体は、心を入れておく単なる器ではない」
という感覚でした。
呼吸すること。
立つこと。
歩くこと。
力を入れること。
力を抜くこと。
人に触れること。
人に触れられること。
私たちが毎日何気なく行っている身体の営みそのものが、人間の感じ方や心のあり方と関係している。
そう考えると、身体を見る仕事はやはり奥が深いなと思います。
そして、自分がまだまだ知らないこともたくさんあります。
施術者として経験を積むことも大切ですが、本を読んだり、研究に触れたり、自分が今まで持っていた考え方を一度疑ってみることも大切にしていきたいと思っています。
これからこのブログでは、身体や臨床についての記事だけでなく、
自分が実際に読んで、「これは勉強になった」と感じた本についても少しずつ紹介していきます。
専門家向けの難しい内容だけではなく、
「身体って面白いな」
と感じてもらえるような本も紹介できればと思っています。
今回紹介した『動きが心をつくる』は、
身体に関わる仕事をしている方はもちろん、
「身体と心って、本当に別々なんだろうか」
と一度でも考えたことがある方には、ぜひ読んでみてほしい一冊です。
今回紹介した本
春木 豊 著
『動きが心をつくる―身体心理学への招待』
講談社現代新書、2011年
本書では、姿勢・呼吸・筋反応・歩行・身体接触などを通して、「身体から心へ」という身体心理学の考え方が紹介されています。


