TFCC損傷とは?手首の小指側が痛む原因と、前腕・回外筋までみる理由

はじめに
「手首の小指側が痛い」
「ペットボトルの蓋やドアノブを回すと痛む」
「フライパンや荷物を持ったまま手首をひねると痛い」
「床や椅子に手をついて立ち上がると痛い」
「ゴルフやテニスをすると手首の小指側が気になる」
このような症状の原因の一つとして考えられるのが、TFCC(三角線維軟骨複合体)の損傷です。
TFCCは手首の小指側にある組織ですが、その役割は単純な「クッション」だけではありません。
手首に加わる力を受け止めながら、橈骨と尺骨で構成される遠位橈尺関節(DRUJ)を安定させ、前腕の回内・回外運動にも関係する重要な構造です。
そのため、
「痛いところが手首だから、手首だけを施術すればいい」
とは限りません。
特に、
- ひねると痛い
- 握った状態で動かすと痛い
- 手をつくと痛い
- スポーツで繰り返し手首に負担がかかる
といった場合には、TFCCそのものだけでなく、手首の安定性や前腕の回旋運動、周囲の筋肉まで含めて確認することが重要になります。
TFCCとは?
TFCCは「Triangular Fibrocartilage Complex」の略で、日本語では三角線維軟骨複合体と呼ばれます。
名前の通り、一つの組織ではありません。
主に、
・三角線維軟骨
・掌側、背側の橈尺靱帯
・尺骨月状骨靱帯
・尺骨三角骨靱帯
・ECU(尺側手根伸筋)腱鞘周辺の組織
などから構成される複合体です。
TFCCには大きく、
① 手首の小指側に加わる力を分散する
② 遠位橈尺関節(DRUJ)を安定させる
という役割があります。
例えば、床に手をついたり、物を握ったりしたときには、手首にさまざまな方向から力が加わります。
TFCCはこうした力を受け止めながら、手首や前腕が安定して動けるように働いています。

なぜ「ひねる動作」で痛みが出るのか?
TFCCを理解するうえで重要なのが、前腕の回内・回外です。
手のひらを上に向ける動きを「回外」、下に向ける動きを「回内」といいます。
少し専門的な言葉ですが、日常生活では頻繁に使っています。
例えば、
- ペットボトルの蓋を開ける
- ドアノブを回す
- 鍵を回す
- ドライバーを使う
- フライパンを返す
といった動作です。
こうした動きでは、手首だけが動いているわけではありません。
橈骨が尺骨の周囲を動きながら、前腕全体で回旋しています。
その際に重要になる関節が**遠位橈尺関節(DRUJ)**です。
TFCCはこのDRUJを安定させる主要な構造の一つです。
そのため、
「じっとしているとそれほど痛くないのに、ひねると手首の小指側が痛い」
という場合には、TFCCだけでなく、前腕全体の回旋運動を確認する必要があります。
TFCC損傷には「外傷性」と「変性」がある
TFCC損傷というと、
「転んで手をついて痛めた」
というイメージが強いかもしれません。
実際、PalmerはTFCC病変を大きく、
Class 1:外傷性病変
Class 2:変性病変
に分類しています。
外傷性では、
・転倒して手をついた
・スポーツで手首を強くひねった
・ラケットやクラブを振った際に負担がかかった
・手首に急激な回旋力が加わった
などをきっかけに症状が出ることがあります。
一方で、
「特に強く痛めた覚えがない」
という方でも症状が出る場合があります。
TFCCには加齢に伴う変化が起こることが知られており、Mikicの解剖学的研究でも、年齢とともに退行性変化が増加することが報告されています。
そのため、
「転んだ覚えはないけれど、最近ゴルフをすると痛い」
「仕事で手をよく使っていたら徐々に小指側が痛くなった」
というケースでも、TFCCを含む尺側手関節の状態を確認することがあります。
ここで大切なのは、
画像にTFCCの変化がある=現在の痛みがすべてTFCCから出ている
とは限らないことです。
画像所見だけではなく、
いつ痛いのか、どの動きで痛いのか、どの部分に負荷が加わっているのか
を合わせて考える必要があります。
TFCCは場所によって「治りやすさ」が違う
TFCCを考えるうえでもう一つ重要なのが、血流です。
TFCCは、すべての場所に同じように血液が流れているわけではありません。
BednarらやThiru-Pathiらの研究では、TFCCの血管は主に周辺部から入り、中央部では血流が乏しいことが報告されています。
血液は組織が修復していくうえで重要です。
そのため、TFCCのどの部分が損傷しているのかによって、組織の治癒能力にも違いが生じる可能性があります。
つまり、
「TFCC損傷だから、この施術をすればいい」
と単純に考えるのではなく、
どの場所に、どのような損傷が起きている可能性があるのか
を考えることが大切です。
TFCCだけでなく「DRUJ」をみる理由
TFCCは、遠位橈尺関節(DRUJ)の主要な安定化機構の一つです。
前腕を回内・回外すると、橈骨と尺骨の位置関係も変化します。
この動きを安定させるために、
TFCCを構成する靱帯だけではなく、周囲の軟部組織や筋肉も協調して働いています。
そのためTFCC周辺に痛みがある方では、
・回内と回外のどちらで痛むのか
・左右で前腕の回り方に違いがないか
・DRUJに不安定性がないか
・握った状態で症状が変わるか
・手をついた時に症状が出るか
・ECUなど周囲の筋や腱に問題がないか
なども確認します。
例えば、
何も持たずに手首を動かすと大丈夫なのに、ペットボトルを握ってひねると痛い
という場合。
単純な手首の可動域だけを確認しても、症状の原因が分からないことがあります。
「実際に痛みが出る動作」を確認することが重要です。
ECUなど周囲の筋肉もTFCCと関係する
TFCCの評価では、手首周囲の筋肉や腱も無視できません。
特に**ECU(尺側手根伸筋)**は、TFCCと解剖学的にも機械的にも密接な関係があります。
ECUは前腕の小指側を走る筋肉で、手首を小指側へ動かしたり、手関節を安定させたりする働きがあります。
ゴルフやテニスなど、
「物を強く握った状態で手首を動かす」
スポーツでは、ECUを含む周囲の筋肉にも負担が加わります。
Tangらは、TFCCがECU腱の機能を支える構造の一部として働いていることを報告しています。
そのため、
「TFCCが痛そうだからTFCCの部分だけを施術する」
という考え方では十分ではないケースがあります。
実際には、手首周囲だけではなく、
前腕全体でどのように力を受け止めているのか
を見ることが重要になります。
回外筋へのアプローチを考える理由
もう一つ、当院で確認することがある筋肉が**回外筋(supinator)**です。
回外筋は前腕の上部にあり、橈骨を取り囲むように走行しています。
主な働きは、手のひらを上へ向ける**「回外」**です。
例えば、
「ペットボトルの蓋を開けると痛い」
「ドライバーを回すと痛い」
「手のひらを上に向けると小指側に違和感がある」
「ゴルフのスイングで手首に痛みが出る」
といった場合。
実際に痛みを感じている場所は手首でも、前腕がスムーズに回旋できているかを確認することがあります。
Baderは、前腕の回内・回外時にDRUJへ加わる力と筋活動について解析し、回外筋や上腕二頭筋などの前腕回旋筋がDRUJの力学に関係することを示しています。
ただし、
「回外筋を緩めればTFCC損傷が治る」
という意味ではありません。
TFCC損傷に対する回外筋への徒手療法そのものの効果を直接証明した研究は、現時点では十分ではありません。
しかし、
・回内、回外に左右差がある
・前腕を回旋すると痛みが出る
・回外筋を含む前腕筋群に過緊張や機能低下がある
・前腕が十分に回らず、手首で動きを代償している
といったケースでは、前腕の回旋機能を整える目的で、回外筋を含めて評価することには生体力学的な合理性があります。
TFCCという「痛む場所」だけを見るのではなく、
「なぜそこに負担が集中しているのか?」

徒手検査だけでTFCC損傷を断定できるわけではありません
TFCCの評価には、いくつかの徒手検査があります。
代表的なものとして、
・Ulnar Fovea Sign
・Ulnocarpal Stress Test
・DRUJの不安定性検査
などがあります。
Ulnar Fovea Signでは、手首の小指側にある「尺骨小窩」と呼ばれる部分を触診し、症状を確認します。
Tayらの研究では、この検査について高い感度・特異度が報告されています。
またUlnocarpal Stress Testは、TFCC損傷だけではなく、尺骨突き上げ症候群などを含む尺側手関節の病変を疑う際に使用される検査です。
ただし、
一つの検査が陽性だからTFCC損傷
と断定できるわけではありません。
Schmaussらの研究でも、徒手検査やMRI単独ではTFCC病変の診断精度に限界があることが報告されています。
そのため、
痛みの場所
受傷した経緯
どの動作で痛いか
前腕の回内・回外
関節の安定性
周囲の筋機能
画像所見
などを総合して考えることが重要です。

当院では「手首だけ」に原因を決めつけません
TFCC周辺に痛みがある場合、当院ではまず、
「何をした時に痛いのか」
を確認します。
例えば、
「ペットボトルを開けると痛い」
「手をついて立ち上がる時に痛い」
「ゴルフのインパクトで痛い」
「仕事でドライバーを使うと痛い」
同じ「手首の小指側の痛み」であっても、症状が出る動作は人によって異なります。
そのうえで、
・手関節の動き
・前腕の回内、回外
・遠位橈尺関節(DRUJ)の状態
・ECUなど尺側手関節周囲の筋や腱
・回外筋を含む前腕筋群
・握る、ひねる、手をつくといった実際の動作
などを確認していきます。
TFCCそのものに損傷がある場合でも、症状に影響している要素がTFCCだけとは限りません。
痛む場所だけに施術を行うのではなく、
手首から前腕にかけて、どのように力が伝わっているのか
を確認しながら、その方に必要な対応を考えていきます。
なお、
・強い外傷後の痛み
・強い腫れ
・著しい握力低下
・手首の明らかな不安定感
・痛みが強く日常生活に大きく支障が出ている
といった場合には、骨折や重度の靱帯損傷などを除外するため、医療機関での評価が必要になることがあります。
まとめ
TFCCは、手首の小指側にある単なるクッションではありません。
手首に加わる力を分散し、DRUJを安定させ、前腕の回内・回外を支える重要な構造です。
そのため、
「手首の小指側が痛い」
「ひねると痛い」
「手をつくと痛い」
という場合でも、
TFCCだけに原因を決めつけるのではなく、DRUJの安定性や前腕の回内・回外、ECUや回外筋など周囲の筋機能まで含めて確認すること
が大切です。
特に回外筋についても、TFCCを直接修復するという意味ではありません。
しかし、前腕回旋やDRUJの力学に関係する筋肉の一つとして、その方の状態によっては評価・アプローチする価値があります。
手首の小指側の痛みには、TFCC以外にもさまざまな原因があります。
だからこそ、
「どこが痛いのか」だけではなく、「どの動きで、どのような負担が加わっているのか」
まで丁寧に確認することが重要です。
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